映画「ほんとうのジャクリーヌ・デュ・プレ」
■映画「ほんとうのジャクリーヌ・デュ・プレ」
1998年にイギリス人天才チェリストの生涯を描いた映画が公開されました。
この映画は天才チェリストとして騒がれたジャクリーヌ・デュ・プレの実の姉ヒラリーと実の弟ピアスが書いた、いわゆる暴露本「風のジャクリーヌ」が原作となっており、身内しかしらない彼女の本当の姿や苦悩などが赤裸々に語られているため賛否両論の作品として知られています。
また家族の視点から見た彼女を描いているためそれが本当の彼女の姿、または彼女が本当に抱いていた感情だと言いがたい部分もあるでしょう。そのためジャッキーのファンや多くのチェロ愛好家、クラシック音楽愛好家から多くの講義の声が上がりました。
また家族の世間には知られたくない部分、非常にプライベートな部分を売るという行為にも多くの批判の声が上がっています。 ジャッキーは1945年イギリスのオックスフォードで生まれました。
彼女がチェロを始めたのはわずか4歳の時でした。きっかけはラジオで聞こえたチェロの音色だったそうです。その後、彼女はロンドンのチェロスクールに通い始めますが、その当時姉のヒラリーがフルートの天才として騒がれていたため、負けず嫌いのジャッキーは姉に嫉妬心や競争心を抱き、毎日必死でチェロを練習していたそうです。
その後10歳にして国際コンクールで姉と共に受賞し、姉妹の立場は次第に逆転し彼女は天才チェリストとしてイギリス中に知られるようになりました。ロンドンの名門音楽学校であるギルトホール音楽学校に入学し16歳にしてリサイタルデビューすると彼女の人気は更に高まり、同じ年にイギリス人作曲家エルガーのチェロ協奏曲を録音した際には彼女の人気は頂点に達しました。
イギリスの最も重要で有名な音楽祭である「プロムス」にも毎年のように出演を決めイギリス国内だけではなく、ヨーロッパ、そしてアメリカまで彼女の評判は届き、その演奏はチェロの巨匠パブロ・カザルスに匹敵するとまで言われました。
そのカザルスやロストロポーヴィチなどの巨匠に師事するなか、彼女は世界各地へと演奏旅行に出かけるのでした。ですが青春時代の全てをチェロに捧げた彼女は、音楽以外の部分に関しては全く無知でした。そのため演奏旅行での旅先から洗濯物をイギリスの実家まで送ったという普通では考えられない話も映画の中で現れます。
その後彼女は22歳になり、女性としての幸せを得ます。彼女の夫となったのはアルゼンチン出身のピアニスト、また指揮者として活躍していた天才ピアニストダニエル・バレンボイムでした。
その後、彼と二人での演奏活動が波に乗っていた時に、その後彼女を苦しめることになる病の兆候が見られ始めます。指先に違和感を覚え始めた彼女がその病名を知ったのは1971年、結婚から4年後のことでした。
そして1973年にはチェリストとしての引退を余儀なくされるのでした。病気が悪化する中底知れぬ不安を抱えた彼女の精神状態は不安定になり、姉ヒラリーと彼女の夫であるクリストファーの下に居候し始めるのでした。
ところが、かつては天才少女として騒がれていた姉が、音楽の世界から一線をおき幸せな結婚生活を手に入れたのを目の辺りにし、自分の音楽家としての人生に疑問を抱きはじめていた彼女は、平凡だけど幸せに暮らしている姉夫婦の結婚生活を見て、精神的にさらに追い詰められてしまったのです。
そこで、彼女のとった衝撃的な行動、そして彼女を何とか救おうとして姉ヒラリーのとった行動がこの映画の最も批判の声があがった部分になります。 なんと彼女は姉の夫であるキファーの体を要求し始め、姉は悩んだあげく夫と相談し夫に彼女の要求に従うように説得するのです。このような非常に赤裸々な部分は家族である姉のヒラリーが暴露しなかったら世間は知らなくて済んだのです。
家族である姉が妹の決して誇れるとは言えない行動を世間に公表したというのは、批判を受けるのも当然でしょう。 思うようにチェロが弾けないという苦しさの中、1973年には事実上、引退を余儀なくされ、その後はチェロ教師として若手チェリストの育成に力を注いだ彼女は辛いリハビリにも絶えていましたが、1987年、42歳の若さでこの世を去ってしまいました。
この映画で天才チェリストとしてのジャッキーだけではなく、その裏に潜んでいた苦悩や人生に対する問いかけなどを見ることができるのは確かでしょう。ですが、この映画はあくまでも彼女の姉と弟の視点から描かれたもの。本当の彼女の思いは、想像はできるものの、実際には彼女以外は誰もわからないのです。
彼女は音楽家としての成功や栄光を欲しいままに手にしましたが、それでもなお姉の平凡な幸せを妬むのです。演奏家で生きるというのは実際には非常に孤独な世界に生きるということなのです。
この映画での彼女の演奏は、彼女自身によるものではなくほとんどが吹き替えになっていますが、彼女を有名にした作品であるエルガーのチェロ協奏曲は彼女自身の録音によるものを聞くことができます。この録音は、彼女の演奏を超えるチェリストはいないと言われているほどの素晴らしい演奏になっています。
■映画「ほんとうのジャクリーヌ・デュ・プレ」の関連サイト
1.映画「ほんとうのジャクリーヌ・デュ・プレ」(※ウィキペディア、キャスト)